生命大躍進 レポートVol. 3

まだまだ暑い日が続きますが、皆さんいかがお過ごしですか?
体調には気を付けつつ、この夏を楽しみましょうね。

PG氏から引き続いて、僭越ながら私Coelacanthがお送りする、上野の国立科学博物館の
特別展「生命大躍進―脊椎動物のたどった道」

(2015年10月4日まで開催中!)、レポート第3弾の始まりです。

1.予習と復習

 さて、今回の特別展「生命大躍進―脊椎動物のたどった道」ですが、非常に長い時間における進化の歴史、仕組みをたどっていく中で、時代をさかのぼっての検証を必要とする展示が幾つか出てきます。

 より、有意義に今回の展示を楽しんでいただく為に、自戒も込めて、簡単な時代年表を頭に入れた上で、見学していただく事をおすすめします。

 とは言っても、テスト前の勉強の様な、難しい事を覚えていただく必要はありません。
 ざっくりと、以下のイメージだけ知っておいていただくだけで、十分ではないかと思います。

年表1 (500x201).jpg

 「こんなこと、もう知ってるよ!」という方には大きなおせっかいですが、この時代名の順番をご承知いただけているだけで、今回の展示の理解度が大きく高まると思います。特に、今回の特別展で知的デートとしゃれ込もうと思っているリア充な貴方、これを知っているだけで、かなりの高ポイントが稼げると思いますよ(熱く、自戒を込めて)!

 また、今回の特別展は、科博さんの常設展とも大きくリンクしています。
 特別展をご覧になった後、お時間があれば、地球館の地下2Fの展示[地球環境の変動と生物の進化 -誕生と絶滅の不思議-]を続けてご覧になられることをおすすめします。生命の誕生、バージェス頁岩、シーラカンスをはじめとした魚類の進化、恐竜と見間違うばかりの巨大な哺乳類、人類の誕生、進化まで、特別展とは違った目線から、順を追って丁寧に展示されており、より立体的に学ぶことができますよ。

 ちなみに、地球館はこの7月にリニューアルしたばかりです。
この機会に、是非新しい科博も体験してきてくださいね。


2.ビッグファイブ

「ビッグファイブ」、そこはかとなく昭和感の漂うネーミングですが、何かご存知ですか?
実は、これは過去の地球の歴史上で起きた、5回の大量絶滅の総称なのです。

 大量絶滅として有名なのが、白亜紀末の巨大隕石の衝突によって引き起こされた、恐竜を初めとした生物の大量絶滅事件です。この大量絶滅よりも前に、何と4回も、8割以上の生物を絶滅に追い遣る大異変があったそうです。

 原因ははっきりしていないようなのですが、寒冷化温暖化大規模な火山の噴火など、地球規模の異変が原因と考えられているそうです。

 この「ビッグファイブ」を、先ほどの年表に落とし込んでみると、こんな感じです。

年表2 (500x205).jpg

 こうやって見ると、大量絶滅が頻繁に起きている様で、何だか怖いですね。
 この大量絶滅が、その都度、地球上の生物相を大きく変え、新たな進化を促す要因の1つともなっているのです。
 今回の特別展の展示では、この「ビッグファイブ」についても、数々の化石と共に、丁寧に解説されています。

3.海から陸へ

 さて、ここからようやく、今回の特別展に沿った、進化の流れのお話に戻ります。
 オルドビス紀末の大絶滅を乗り越えて、シルル紀になると、これまで、宇宙生物の様な、奇妙な形の生物たちばかりだった海中に、私達にも多少見慣れた形をした生物が見られるようになってきます。
「魚類」の誕生です。

 今回の特別展では、無顎類板皮類棘魚類など、さまざまな形状の、魚類の祖先化石を見る事ができます。
 その中でも特徴的なのは、先日のブログで「カメラ目」の代表格としても紹介された
「ダンクルオステウス」でしょう。

Dankleosteus (400x266) (3).jpg

 大きさ10mに達したと考えられる、鋭く力強いあごをもつ彼らは、デボン紀の海では、まちがいなく、海の食物連鎖の頂点に立っていたことでしょう。
 ダンクルオステウスが無慈悲にウミサソリを噛み砕いてしまうCG映像を見ると、まさしく海の暴れん坊!という言葉がぴったりです。

 しかし、両生類としての変化を遂げ、陸上への上陸を果たす魚は、このダンクルオステウス、もしくは彼が属する「板皮類」からではありませんでした。「肉鰭類」と呼ばれる、シーラカンス等が属する魚の仲間たちが、上陸への切符を手に入れたのです。

 肉鰭類のヒレは硬い骨、筋肉から進化を遂げて四肢となり、食道が変化して生まれた、原始的な肺を得ることにより、デボン紀後期、彼らは両生類として、ついに上陸を果たします。この両生類の代表「イクチオステガ」の化石も、もちろん展示されていますよ。

Ichtyostega (400x265).jpg
(カロラータ、リアル両生類トランプより)

 ところで、先ほどの海の暴れん坊、ダンクルオステウスはどうなったのかと言いますと、
当たり前ですが、すでに絶滅しています。一時は生態系の頂点にいたと考えられる彼らですが、デボン紀後期の大量絶滅期を乗り越える事ができませんでした。

 ちなみに、特別展のCG映像では、無残な負け方をしていたウミサソリですが、種としては、ダンクルオステウスに負けてはいないかもしれません。年表に、それぞれが生きていた時代を落とし込んでみます。

年表3 (500x274).jpg

 ウミサソリの方が、種類としては、ずっと長命なのですね。
 盛者必衰とも言えるのでしょうか、食べられていた者が、食べていた者よりもずっと長い時代を生き抜いており、種としては成功していたという事かもしれません。「三葉虫」など、まさにそうなのでしょう。
 こんなところにも、進化の不思議さを感じませんか?

4. 両生類から爬虫類、単弓類へ

 デボン紀末に、肉鰭類から進化して、陸に上がった両生類ですが、繁殖の際などは、水中に戻る必要があったため、水辺から近い所での生活を余儀なくされていました。しかし、彼らに
とって、水辺は捕食者との接触の可能性が高い、危険な場所でもあったのです。

 石炭紀後期、この弱点を克服するために、両生類たちはより乾燥に強い皮膚、それに伴う肺呼吸力を持った、2種類の生物群に進化します。

 1つが「爬虫類(双弓類、そうきゅうるい)」、もう1つが「単弓類(たんきゅうるい)」です。爬虫類はご存知かと思いますが、単弓類という名前になじみが無い方も多いのではないでしょうか。単弓類は、哺乳類の古い祖先とされる生物群で、頭蓋骨の、目玉が入る穴の後ろに、もう1つ穴があることから、その様な総称で呼ばれています。双弓類は、目の後ろに穴が2つあることからの呼び名ですね。

Skull-2 (400x337).jpg

 今回の特別展で、単弓類の代表として紹介されているのが「ディメトロドン」、大きな背びれを生やした、イグアナの様な見た目で、恐竜を彷彿とさせますが、実は恐竜とは全く違う生物で、私達が知っている恐竜よりもずっと前に生きていた生物です。こんな恐竜の様な生物が、哺乳類の祖先とは、何とも信じがたいです。

 特別展の第3章「哺乳類の出現と多様性」では、ディメトロドンの化石はもちろん、足跡の化石、複製モデル、CG映像まで展示されていて、ディメトロドンが生きたペルム紀の雰囲気を、存分に楽しむことができますよ。

5. 哺乳類への進化

 先程紹介したディメトロドンは、ペルム紀末の大量絶滅を乗り切る事ができなかったのですが、一部の単弓類は生き残りました。最終的には恐竜の台頭によって、単弓類としては絶滅してしまいますが、その前に、一部の単弓類が哺乳類に進化を遂げていたのです。

 巨大な恐竜たちから隠れるようにして、ジュラ紀を生き延びてきた私達の祖先が、今回の特別展でも大きくフィーチャーされている「ジュラマイア」です。

Leaflet Jura(1) (280x400).jpg
(上段、白い矢印で示したコです)


ねずみさんですね。

 しかし、ただのねずみさんではありません。
 2011年に発見された化石から、胎盤を持つ、世界最古の哺乳類だと判明したのです。

 つまり、これまでの卵による発生から、胎盤を持つことにより、お腹の中で赤ちゃんを育てられる様になったのです。これにより、卵で産んでいた時に比べ、子孫を無事育てる確率が飛躍的に上がりました。

 彼らが、私たちの知る白亜紀末の大量絶滅を乗り切り、私たちを含め、現代を生きる哺乳類の祖先となったのです。

 白亜紀以降の哺乳類、そして私達人類の進化については、次のブログに譲りましょう。

 老若男女、みんなが楽しめる今回の特別展「生命大躍進-脊椎動物のたどった道」、是非行ってみてくださいね。



 

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