暑い日が続いたり、場所によっては大雨だったりと、大変な夏になっておりますが、皆様いかがお過ごしですか?ぜひ、もろもろお気を付けて、夏を楽しんでくださいね。
さて、カロラータスタッフがお送りする上野は国立科学博物館さんの、この夏の特別展「太古の哺乳類展」レポートシリーズ、私Coelacanthが第3回を担当させていただきます。これから見学予定の方だけでなく、既にご覧になられた方にも楽しんでいただける様、頑張りますのでよろしくお願い致します。
★日本列島ピンチ!
この度の「太古の哺乳類展」は、サブタイトル「日本の化石でたどる進化と絶滅」の通り、日本の哺乳類についての歴史をたどる事がテーマになっています。
その歴史を語る上で欠かせないのが、現在の美しい日本列島の形状が、どのようにして生まれたかを知る事なのです。
皆様ご存じの通り、大昔は大陸と地続きになっていた地面が、長い年月をかけて切り離され、現在の日本列島ができています。「太古の哺乳類展」第4章「巨大大陸の時代」では、日本列島が生まれるまでの大陸の動きを動画で分かりやすく見せてくれています。
約1800万年前、日本海が南北から入り込んで、日本列島が形作られます しかし、その直後の日本の形状は、現在の様な弓状ではありませんでした。たくさんの小さな島々が連なった、ちょうど現在の東南アジアの島国の様な形状であったそうです。
いきなり大陸からぶちっと切り離されて、今に至っているわけではないんですね。実際会場で動画を観ていただけるとお分かりかと思うのですが、日本海誕生後の日本列島は、細かくなりすぎて、そのまま海の底に沈んでしまいそうなはかなさを感じてしまいます。
思わず「日本がんばれー」と声を上げてしまいたくなる危うさです。
ぜひこちらの動画をご覧いただき、現在の日本列島がある奇跡を皆様と分かち合いたいものです。
★日本のゾウが語ること
小さな島の集まった形状の、生まれたての日本ですが、それに伴い、大陸で生きていたつもりの動物たちも、いつの間にか小さな島国での生活を強いられることになってしまったのです。
予想外の事態により、小さな島に取り残されてしまった動物たちは仕方なく、環境に合わせて独自の進化をして行く事になります。
そんな、小さな島々での進化を強いられた動物として、今回紹介されているのが
「ステゴロフォドン」です。
「ドン」とか名前についていると、何だか恐竜っぽくてかっこいいですよね
しかし、ステゴロフォドンは恐竜ではありません。こんな感じのコです。
ちょキバが4本何てかっこいいのでしょうか
(絵のクオリティは無視していただけると幸いです)
現代のゾウとは違い、下あごからも鋭いキバが2本生えています。
実は、ステゴロフォドンとは、恐竜ではなく、大昔のゾウの仲間なのです。
昔のゾウの名前とか、普通はご存じないかとも思いますが、3年ほど前に、茨城県の高校生が、ほぼ完全体の、昔のゾウの頭骨化石を発見したというニュースを覚えている方もいらっしゃるのではないでしょうか?私も、世の中にはすごい高校生がいるのだなーと感心した事を覚えています。
この時発見されたのが、このステゴロフォドンの化石なのです。
なぜ、このステゴロフォドンが注目されるのか?
もちろん、昔の日本にゾウがいたという事実を証明するものであることも大事なのですが、それと同時に、日本が小さな島々に分かれた(島しょ化と言うそうです)時代を象徴する動物であるからなのです。
大陸にいた、このステゴロフォドンが小さな島だらけになった日本に取り残された後、ゾウとしてはちょっと想像しにくい変化をして行く事になります。
何と、小さくなっていくのです!
大きなくくりで見ると、海に囲まれた、小さな島の中で生きていくためには、身体の大きさが小さい方が、ご飯が少なくて済んだり、早くに成熟して子孫を残せたりと、何かと有利な点が多いのだそうです。
島に取り残されてしまったステゴロフォドンたちは、長い時間をかけて、小さくなることで環境に適応しようとしたのですね。
第4章「巨大大陸の時代」では、このステゴロフォドンの化石から、小さな島々となった日本で生きた動物の進化の一面を紹介してもいるのです。
★小さきことは美しき哉、また、大きなことも美しき哉
このステゴロフォドンの様に、大きな動物が環境の影響で小型化する事もあれば、逆に、小型の動物が、小さくなった大型動物が占めていた環境を狙って、大型化する事もあるのです。
この様な進化を「島しょ効果」と言うそうです。
そんな不思議な、島しょ効果は、今の地球でも見ることができます。
インドネシア、観光地として有名なバリ島の東に、フローレス島という島があります。
この島は、生物への島しょ効果を語るには欠かせない場所なのです。
2003年、この島である原人の化石が発見されました。推定身長は何と約1m。
その小ささから「ホビット」というあだ名を与えられた、この原人さんは、余りの小ささから、果たして何者なのかと話題になりましたが、現在は、島しょ効果により小型化した、人類の祖先の一系統であるという見方が大勢を占めている様です。
そして、このフローレス島周辺ではこの「ホビット」以外にも、島しょ効果によりサイズが変化したと思われる生物の例がたくさん見つかっています。
絶滅してしまいましたが、この島には、ステゴロフォドンと同様に、小型化したゾウ「ピグミーステゴドン」、そして、高さ2mにも達する巨大な鳥「ハゲコウ」が存在していたことが確認されています。
そして、現在も通常の約2倍の大きさのネズミがこの島では生きているそうですよ
また、フローレス島の一部には、知名度、大きさともにメジャー級のオオトカゲ「コモドオオトカゲ」も住んでおり、彼らも、島しょ効果の影響を受けているのではないかと考えられています。
コモドオオトカゲ
立体図鑑「レプタイルボックス」
体長約3mって、もうトカゲの域を超えていますよね
そして、毒で自分よりも大きな水牛でさえも仕留めてしまうとか、やはり独自の進化の道をたどってきたとしか思えません。
そして、昆虫でも島しょ効果の影響を見ることができます。
ギラファノコギリクワガタ
立体図鑑「スタッグビートルボックス」
かっこいいですねー。おそらく、これほど男の子の本能をくすぐるクワガタムシは他になかなかいないのではないでしょうか?
東南アジア、インド等幅広い地域で見られる、巨大なアゴが印象的なクワガタムシなのですが、実は昆虫好きの間では、このギラファノコギリクワガタの亜種とされる、フローレス島産のタイプ(ケイスケイ)が特に大型化することで有名なのです。
この、ギラファノコギリクワガタにおける大型化については、学術的に語られているのか分かりませんが、こういった例は、探ってみるとたくさんあるのかもしれません。ロマンですね
この、フローレス島の島しょ効果に関しては、主に人類進化の観点からですが、国立科学博物館の常設展示、地球館の地下2F、奥の方にて解説されています。特別展の見学後に見える、正面の建物の中です。
島しょ効果について色々と語らせていただきましたが、動物の大きさを決定するのは、住んでいる環境の広さだけではありません。常設展示、日本館の2F「生き物たちの日本列島」では、寒いほど体が大きく、暖かいほど体が小さくなる動物の特性を、ニホンジカ、イノシシなどの例をもとに分かりやすく解説しています。こちらの展示、個人的におすすめです
様々な環境要因が複雑に絡み合って、動物に影響している事が良く分かります。
こういった立体的な展示が国立科学博物館さんの魅力の1つです。ぜひ常設展も見学して行って下さいね。
★その後のゾウさんたちは…
哺乳類の話から、人類、爬虫類、昆虫と、ずいぶん脱線してしまいました。
哺乳類だけでなく、地球上の生き物全てが、環境に大きな影響を受けて進化している事がお伝えできればと思います。
失礼致しました。お話を戻しましょう。
さて、小型化までして頑張ってきたステゴロフォドンですが、残念ながら絶滅してしまったそうです
小型化したとしても、彼らにとって島しょ化した日本は、厳しい環境だったのでしょうか。
その後、日本列島は更に激しくその形状を変化させ、大陸と再度陸続きになったり、離れたと思ったら氷河で大陸とつながったりすることで、さらに新たな動物を受け入れてきたのです。そして、再度日本にやってきたゾウ達は、また日本で新たに進化していくのです。
今回の「太古の哺乳類展」で、主要なテーマを占める、日本でのゾウの進化のお話は、もう少し後になります。弊社の誇るデザイナーが、私とは真逆の美しい文章で、その時代を解説させていただく予定ですので、楽しみにお待ちください。
その前に、次回は、日本を代表する大型絶滅哺乳類「束柱類」について語らなければなりません。
「束柱類」とは何者か気になる方がもしいらっしゃいましたら、次回もぜひカロラータのブログをご覧くださいね。
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